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Desire ~Return to my home


R161を南下する車の中は、2人の思いとは裏腹に、楽しいひとときだった。
何とも言えない温かな気分で、何というのか、これは女房と遊びに行ってた時と似ている。。。。

“なんや、嫁はんとドライブしてるみたいやわ。”
“そうやん、奥さんの話してくれへん?”
“あかんよ。今はおまえとデートしてるんやから。。。”
“奥さんとはどこで出会ったの?”
“今の職場や。”
“どっちから告白したん?”
“う~ん。。。女房のような気がするなあ。。。っていうか、全然人の話聞いてないね。”
“あら、意外やね。”
“お子様は2人って言ってたっけ?”
“おう、上が女の子で、下は男の子やな。”
“ほほう。最低2回はやったんや。。。。”
“おまえ、おばはんなったなあ。。。昔はそんなこと、かけらも言いそうになかったけど。。。”
“あははは!43やもん。。。”


20年前に戻ったような時間が過ぎていく。
南インターが近づくと、yumikoの口数が少なくなって来た。
yumikoの家が近づいてきたわけで、それはすなわちエンディングを意味するのだ。
インターを出て左に曲がる。このあたりはホテル街で、昔はドキドキしながら通過したもんだ。

黙っていたyumikoが急に口を開く。
“なあ、寄っていかない?”

昔のことを思い出していた僕は、飛び上がった。

“ど、どこに?”
“このシチュエーションで、寄っていかない?と聞かれた場合、普通はその辺のホテルを意味するやろ?”
“。。。20年前やったら、喜んで寄ってたやろうね。”
“おお?やっぱりそうやったんや。”
“若かったもん。。。。”
“寄ったら良かったのに。。。。”
“そういうことは20年前に言うてよね!”

言う間にホテル街を通過していく。

“上手いこと誤魔化したね。”
“ま、だてに年取ってないと言うことで。。。。”
“私を嫌いではないよね?”
“当たり前のことを聞かれるのは好きじゃないなあ。”
“じゃあ好き?”
“。。。。。”
“k○○○さんの最悪に悪いところはそういうところ。”
“自分でも思うわ。昔から、言わないといけない大事なところで背中向けるやろ俺。”
“ほんまに。。。”

大事な事を忘れていた。
“なあ、とても気になっていることがあるんやけど、教えてくれへんかな?”
“何でしょ?”
“一つは、何で急に俺に会おうと思ったわけ?”
“ほお。。。なるほど。。。それだけ?”
“もう一つは、なんで俺のメルアドを知ってるわけ?”
“ほほお。。。なるほどなるほど。。。”

“一つ目の答え。今度再婚することになったので、過去を振り切っとかないとと思いました。”
“そうなんや!そら10才は年ごまかせるからなあ。若い子たらし込んだなあ?”
“あははは!同い年の人です。。。”
“おめでとうね。俺も嬉しいな。なんか。。。”
“ありがと。。。”
“もう一つの答えは?気になってしょうがないねんけど。。。。”
“誰かは言えないけど、ある人に教えてもらったの。k○○○さんの昔からの知り合いとか言ってたよ。”
“誰よ?”
“今、人の話聞いてた?言えません!”
普通はとても気になるところだろうけど、何故か、あまり気にならなかった。
“教えてもらう権利はありありやと思うけど、まあええわ。けど、イタメールせんといてや。”
“せえへんわ!”

yumikoの家が近づき、大通りで車を駐めようとすると、
“ちょっと、最後までちゃんとして。。。”
と。。。
そうだった。あの時は家の前で降ろしたっけ。


“さすがに泣きそうやわ。”
“。。。。”

家の前で車を停める。

“さ、ちゃんと言うてもらおうかな。。。”
“。。。。”
“ほらあ、さっきなんて言ったのよ。”
“。。。。”


僕は、言わなければならない言葉を探して、そして。。。

“これでお別れやな。これで過去を振り切ったわけやから。。。。幸せに!”
“うん。ちょっと遅めの幸せを目指すわよ。”
“さよなら。”
“今日は会ってくれてありがとう。会えて良かった。さよなら。”

にっこり笑ったyumikoはあの時と同じように顔を近づけてきた。
けど、20年前と違った。
“でも今日はチュー無しね。”


それだけ言うとyumikoは、何も言わずに後ろ手でドアを閉め、一度も振り向かずに、yumikoは玄関の向こうに消えた。


僕は、深いため息をつき、ギアをドライブに入れた。


僕は、yumikoと完全に別れたのだ。


どこをどう走ったのか。。。。気がつけば、見知らぬ道を走っていた。
ナビのモニターをアップする。即座に現在地が表示されるが、思考が反応しない。




yumikoは今日、僕に会って良かったと言った。

僕は今日、yumikoに会って良かったのか?


傍目には何も変わっていないけど、僕自身は知らなくてもよかった過去の裏側を知ってしまった。
お互いの中で終わっていなかった関係を完全に精算できたのはよかったのかもしれない。少なくとも、yumikoはそう思ったのだ。
あの時、何も言わずに別れたせいで、yumikoの気持ちが終わってなかった事はショックだったけど、時間を遡ることは出来ないし、失った時間を取り戻す方法も思いつかない。
答えは永遠に出ない気がする。
それでいい気がする。

“狡い答え。。。。”
yumikoの声がした気がした。




僕はナビの“自宅ボタン”をプッシュした。
“自宅への案内を開始します”


さあ、帰るぞ!
女房と、チビの待つ、我が家族の元へ!





おわり
by tamz_ortho | 2011-03-11 19:31